大祭-1 酷暑期に選定者は踊り子の中から第一級を選り取る
第 8 番 月
ナジュムンドの今は第8番月。一年で一番の酷暑期に入る。
この月に豊穣を祈るための最上級の祭儀が執り行われるため、祝い月とも呼ぶ。
王族は厳かな儀式の準備に取り掛かり、その身を清らかにして日々を過ごす。
国民は華やかな祭りの用意を始め、その日が来るのを心待ちにする。
祭りは三夜に渡って行われ、花燈を灯し、舞いを捧げ、宴して祝福する。
炎暑の中、ある者たちもまた今季の大祭について密やかに語り合うのだった。
◆
天井から乾燥させた草木花が吊り下がり、床には籠と麻袋が幾つも並んでいた。
生の花と異なる香りが部屋に満ち、かさこそとした手仕事が立てる静かな音が聞こえてくる。
乾いたとしても花々の色鮮やかさは失われず、
あるものは本来の色よりも濃く、またあるものは薄く、彩りに溢れ、
それぞれの入れ物には花びらや葉っぱがこんもりと山になっている。
部屋の中央には象牙色の織物が敷かれ、その上にジャウハラは座っていた。
手の届く範囲に籠を並べているために、扉から見ると籠に囲まれているように見える。
浅めの籠には薬草や鉱物が盛られ、戸棚の引き出しをそのまま取り出した容器には、
清潔なガーゼが重ねて入れられていた。
静かに作業に打ち込む姿は素朴でありながら神秘さを感じさせる。
ラベンダー、セージ、岩塩。
これらをガーゼに包み、その端をきゅっと結ぶ。
ここまでその香りは届かないが、濃い紫色の残像は優しく、
心地よく落ち着いた香気を思い起こさせる。
事実、これらの作業はアルマーの心と体に安定と平穏をもたらす。
それは神に仕える者の在り様に似ていた。
と言っても、神に仕える者なんて碌な奴を知らなかった。言葉の綾だろ。
扉口からしばし眺めていたアズハールは、壁をノックしてから声を掛けた。
「ジャウハラ、お昼の準備ができてるぜ。そろそろ手を休めて中庭へ行こう」
顔を上げたジャウハラは透き通ったヴィオラの瞳をこちらに向けた。
その色は酷暑の中で一際涼やかで、束の間暑さを忘れさせた。
「アズハール、呼びに来てくれたの。店番はもういいの? 鐘も鳴ってないわ」
「ああ、店番はお終いだ。ラバーブが来たから先生がもてなしてる。だから呼びに行けって」
ジャウハラは、手を止めてさっと身の周りを整えると立ち上がった。
今日は俺が店番でナルジスが料理番。そしてジャウハラが煙草番だった。
おおよそ、朝は煙草のフィルターを巻いて過ごし、
必要量を作り終えた後に自分のリーハ作りに取り掛かったんだろう。
そうしていい決まりだ。
数種の薬草や鉱物をガーゼで包んだものはバスハーブという。
浴槽に入れると、いい香りと浸み出た液が浴場を楽園にしてくれる。
ジャウハラがリーハ作りを始めたのは、
サマルとかいう水の一族の首領と二度目の満月の夜を迎えてからだった。
植物だけのもの、岩塩やオイルを加えたものを作っては湯水に溶かし、
作っては溶かして試行を重ねている。
単純なものだけに、完成と言える品はまだできていなかった。
二人は作業部屋を後にし、繋がった部屋部屋を通って中庭へ向かう。
「じっくり喫煙するからゆっくりでいいってさ。
二人っきりで鍵も閉めてさ、締め出された気分だ」
「鍵を閉めたのは店の表扉でしょ。いつもそうしてるじゃない。
アズハールったらいつまで経っても先生を独り占めしたいんだから」
「そうだっけ? しばらく店番に当たってなかったから忘れちまった」
とぼけたふりして言った。
忘れるくらい店番をしていなかったのは本当だ。
リーハ作りに入るまで、店番はずっとジャウハラがしていたのだから。
「ジャウだって独り占めしたいだろ? 気にならねえの?」
「アズハールほどじゃないわ。アズが先生といる時、名前で呼んでるの知ってるわよ」
ジャウハラの言葉に少し驚いて、思わぬ事態に顔を赤らめる。背中がむず痒くなる。
「うっそ、バレてんの……嘘だろ。ま、バレたって今更だし。
ジャウこそ、先生どころじゃないもんな。
満月にサマル、新月にサーリー院長と、体一つじゃ足りないくらいだもんなー」
今度はジャウハラが赤くなる番だった。
からかい半分だが、天秤状態に置かれたジャウハラが困っているのが気になっていた。
ジャウハラが天秤に掛ける側なのに、掛けられる側より困ってるなんて変な話だ。
けれどもサマルとサーリー院長の気持ちはわかる気がした。
頬を染める様子は可愛らしく、俺は思わずその頭を撫でた。
それに、慣らし前であんなに朦朧とさせられ、調整された今でもふと香るのだ。
誘いを受けたら俺は乗るに決まってる。
少しの間、互いに黙って歩く。だが、すぐ口が開く。
「そういえば、客人は久しぶりだからさ、謎々遊びをしろって言うんだぜ。
あーあ、やってられるかっての。
だからさ、番号を的中したら13番をくれって言ってやったよ」
「先生、いいって言ったの? 滅多にくれないもの」
「全然だめ。でも大祭前だから謎々遊び、んーと……今回は番号当てだな。
しない訳にはいかないよな。なあ、ジャウは何番だと思う?」
「うん、そうね。ラバーブが選んだ煙草は何番かしら……」
ジャウハラは師の作る13本の煙草を思い浮かべた。
陳列棚の中央に置かれた金属ケースに等間隔に収められた薔薇シリーズの煙草。
乾燥させ粉末になった煙草葉の香り、形状、手触りを呼び起こす。
できるだけ鮮やかに。いかにもそれが本物であるかのように。唇にフィルターを感じるほどに。
ここへ来てから何枚もの月白のペーパーに触れている。
月白に包まれた芳しい煙草には、『可憐』に始まり『神秘』に終わる名が付けられている。
夜の印象を持った匂い煙草。ジャウハラはリーハをそう定義した。
アズハールが作るアロマワックスにも、ナルジスの作るリボンにさえも感じる印象だった。
そして、師の1~13番のどれを選んだとしても、薔薇の香りが官能を刺激する。
「あっ、待った。番号が近い方に雲煙草1本な。ぴったり当てたら2本。引き分けなら交換」
「いいわ」
そう言って、ジャウハラは瞼を閉じた。
瞼を閉じたら現れる暗闇にふっと小さな火が点いた。
薔薇色の火だ。
火は暗闇に光と影を生み、形のよい輪郭線を浮かび上がらせる。
唇から細く煙が立ち昇り、師の美しさが織り重なり、現れては霞み、そしてまた像を結ぶ。
再び霞んでは、鮮明になる。暗闇にはもう一人男がいるようだ。
点火された煙草の先がもう一人の男、ラバーブの火口に重なる。
薔薇色の火が揺らいで、小さくなったかと思うとまた大きくなる。繰り返す。変化する。
瞳に映るその煙草は一体、何番かしら?
まさに煙のごとく逃げていく香りを両手で捕まえた。
ジャウハラの瞳は三日月を描き、顎がやや上向いてうっとりする。
「4番……きっと4番だわ」
「じゃあ俺は2番だ。ジャウ、謎々遊びにお決まりの約束を交わそう」
すかさずアズハールが言った。どうやら最初から答えを決めていたらしい。
「わかってる」
ラバーブが訪問すると、必ずといって手製の雲煙草をくれる。
雲煙草は、ぼわんぼわんと膨張した煙が連続的に出るためにそう名付けられた。
加えて、ラバーブが作る煙はきらきらした結晶を散りばめたような黄金色をしている。
師は謎々遊びに何かを賭けることを嫌うけれど、アズハールはその方が勘が働くという。
これは直感を鍛える遊びだった。
だからアズハールは仕掛けた。ジャウハラもその遊びに乗る。
ここにナルジスがいれば、ナルジスだって同じことをする。
番号をぴたりと当てれば、当てた者は煙草を2本手に入れることができる。
全員外せば、番号の近い者に1本渡し、同じ分だけ違えば、互いの1本を交換する。
「約束」
二人は同時に立ち止まった。
互いの左手を重ね、指を絡めて熱を感じる。
そうして、約束の魔法を唱えながら唇を重ねた。
「僕は2番だと思うよ」
ナルジスの言葉を聞いて、当てた者が二人だったら、
外した者は煙草を何本差し出せばいいのだろうかとジャウハラはぼんやり思った。
中庭のテーブルには食事の準備ができていた。
アスパラガスのサラダ、レンズ豆のスープ、トマトとライムのガレット。
普段であれば、これにデザートがついて全部になるけれど、
客人がいるために、羊の肉を焼いたメイン料理が香ばしい匂いを漂わせる。
ナルジスは椅子に座って待っていたようで、立ち上がると、
顔を近づけたジャウハラと約束の口づけを交わした。
さらりとした爽やかな匂いが体内に注がれる感覚に浸る。
続けてアズハールが顔を寄せるが、さりげなくも時間を掛けて唇を重ねている。
息継ぎの合間に薄桃色の舌がのぞく。
中庭を流れる水音に紛れても、視覚を通して舌と舌が立てる音が聞こえる気がする。
「相変わらず、えっちなガキどもだ」
3人が声のした方に目を向けると、顎に手を添えたラバーブがにこやかな笑顔を浮かべていた。
「街中は暑いばかりで、ここならいくらか涼しいと踏んでいたが間違っていたようだ。
熱っぽいな。目の保養に事欠かないところだった。ウルード高級煙草店の弟子だもんな」
「おい、変な言い方をするんじゃない」
咎める声は師のものだ。
まるで、そこに店主である師がいないかのように振る舞うラバーブの隣にいる。
二人はちょうど店の裏扉から並んで歩いてきたところだった。
「アズハール、ナルジス。客人がいるというのに戯れが過ぎるようだが」
名指しして、ウルードはたしなめる視線を向ける。
「ラバーブもラバーブだ。見せ物じゃない。散熱の一種と知っているだろうに。
熱を溜めると手に負えない私たちと違って熱も持たないくせに、お前の方がよっぽどだろう」
「はは、違いない。それより、お前ら3人にお土産の雲煙草だよ。
俺の13番は『先生』に預けておくから、いざという時に使ってくれ。少しは役に立つだろ。
いざという時でなくても『先生』が使い物にならなくなったらこのラバーブがお相手するよ」
ラバーブはふざけて『先生』を連呼する。
師は呆れるが、別段やめろとは口にしない。
黒地に灰色の絵の具を筆で粗く塗った箱には12本の煙草が収められていた。
ペーパーは箱と同じ色味で、黄金色の雲の成分を包み込んでいる。
箱の中には一本分の空洞があり、本来であればそこにラバーブの遊び心を隠している。
「でも、ラバーブの好みは僕たちよりずっと年上なんでしょう。そっちで忙しいくせに」
「そうだよ。こっちは間に合ってるって。シャッルに飽きられたら考えてやるぜ」
「その時は期待してるよ。しかし、アズハールもナルジスも言うようになったよな。
ここはこんな沙漠地帯だったか? 荒地に枯れ井戸だ。ジャウハラだけはオアシスに湧く泉だ」
気心の知れたラバーブだからこそ、荒地に枯れ井戸の扱いは単なる冗談に過ぎない。
そんなことはみんなわかっているので、
ラバーブも気にせずテーブルの上の料理を見て旨そうだと言った。
ジャウハラも美味しそうと言って笑った。
「腹が減ったよ。煙草じゃあ腹は満たされないからな。
好きなものしか食わないでいいシャッルと同じようにはいかない」
「ああ、そうだな。とにかく先に昼食にするだろう?」
「もちろん。祭りの果実選びは食事の後だ」
「祭りの準備は順調に進んでいるよ。
神殿は清められ、王も王族も節制している。天幕は張り終えられ、献げ物も整いつつある。
広場には街の奴らだけじゃなく、外からの商人や旅人も集まってきている。
宿はすでにいっぱいらしい。
今年は特に賑やかだ。活気づいてるのは、そりゃお前の予想通り、新しい王が執り行うためだ」
食事中はラバーブとウルードが話すばかりで、話題は8日後に控えた大祭のことだった。
食事を終えた今は、とっておきの薔薇の飲み物を出してくつろいでいる。
自家製のローズウォーターに天然炭酸水を加え、八分咲きの薔薇の花蕾に花びらを散らす。
透き通ったグラスは澄んだ淡いピンクに染まり、シュワシュワと音を立てている。
客人が来た時のための特別なもので、普段から飲むようなものではなかった。
「何だか、私の知ってる大祭と違う話をしているみたい」
「だよな。俺たちだって儀式のことは聞いて知ってるだけだぜ」
「うん、そうなんだ。大祭の裏側は先生しか知らないんだ。
ラバーブも実際のところ見たことはないんだよ」
「俺は選定者だからな。だいたい知っていればいいのさ。
ジャウハラは、これに関わるのは初めてだったか」
「そうだ。去年は祭りの間、マタルのところへ帰したからな。
今年はルゥルアが寂しがるだろう」
ウルードの相槌に、ラバーブは考えながら口を開いた。
「お前らが思い浮かべている大祭は表面的なものだ。
舞人が円舞の練習を始める頃に、花を形づくった燈籠が街中に飾られる。
祭りの三夜ともなれば、大人に子どもの区別のない宴会だ。
この季節の賑やかさはいいもんだ。俺でさえ街へ繰り出したくなる。
その賑やかさの内で、晶の守り神様がくださった豊穣に感謝し、
この実りがこれからも続くよう祈りを捧げる。
これは表も裏も同じだ。だが、文字通り、感謝と祈りは肉体をもって神へ贈られる。
そうだろ?」
ラバーブは顎をしゃくってウルードに続きを促した。
「ああ、その通りだ。ジャウハラ、座学の時間だ。
第8番月に行われる祭儀の本質は、
暑さの最も厳しい季節に生贄を差し出して実りを乞うことだ。
円舞や宴は枝葉であり、幹は天幕の内で行われる。
アルマーはシャッルと遊ぶだけでなく、
実りをもたらす晶の守り神と祭祀を司る王を繋ぐ役目を果たす。
私たちの他にもアルマーは小さな集団を作って隠れ暮らしているが、
その中から一人のアルマーを薬草区の長が選び、晶区の長が認めれば、
天幕という舞台に立つことになる。
アルマーは7日の間、王の使者によって身を清められ、その後、神と王の間を取り持つ」
「清めるだとか取り持つだとか……もったいぶった言い回しだ。幕内でするのは体の交渉だろ」
そういうことだ、とウルードは淡々と言った。
「去年もその前も、しばらくウルードが選ばれている。
お前らの先生が第一級と言われるのはこのためだ。
今年はジャウハラも候補者の一人だぜ。水合わせを通過した者はみな候補者だ。
だからこうやって確かめる。こっちへおいで」
ラバーブが手招くので、ジャウハラは師が頷くのを見てから席を立って近寄った。
薬草区の長が一人のアルマーを選ぶ。神に捧げるに相応しい濃密な香りをさせる者を。
それがラバーブの役割だった。つまり、彼が薬草区の長なのだ。
座ったままのラバーブに対し、ジャウハラの視線は高い。
見上げるファントムホワイトの輪を持つ瞳が微笑むと、
ジャウハラの前髪を払って額の花模様を露わにした。
そして、円を描くようにして指で撫でた。
途端にうなじの毛が逆立つ。ぞくぞくと背筋が熱く震えた。
ファントムホワイトの瞳は今や三日月に変化していた。
「……あ……はぁ……っ」
「いい子だ……本当に、いい反応をする。シャッルの首領が手を出すだけあるって訳だ」
ラバーブは初々しい反応を愉しみながら、ナランキュラスを優しくなぞり、触れ続けた。
あっという間に花模様は高熱を持ち、ジャウハラは眩暈を覚えた。
話をする余裕もない。
それを感じ取ったラバーブは別の者に話を振った。
「ウルード、いよいよ主役の座は弟子に奪われてしまうかもしれないな。
華やかな香りだ……ジャウハラは甘みのあるなめらかな香りがする。それでいて瑞々しい」
「主役だと? 生贄が主役だと誰も思ってないだろう。長く続けたい役でもない」
うなじに鼻先が触れるか触れないかの距離でラバーブは吐息する。
甘くふんわりしたバニラが香る。ラバーブの香りはお菓子みたいだ。
「俺は主役だと思ってるぜ。一番旨いものは、他人に見つからないよう内緒にするものだ。
そうだ、ジャウハラも番号当てをしたんだろう。何番にしたんだい?
話せるか……言ってごらん」
「……4番……にしたの。『魅惑』の4番……それが見えて…」
「ふぅん、的中だ。こいつはますます将来有望だな。正解を出した者にはご褒美をあげよう」
ラバーブは13番の雲煙草をジャウハラの手に握らせ、唇で花模様に触れた。
それだけでたちまち熱が膨らみ、ある境を超えた。瞬きをする間もなかった。
ラバーブはくったりしたジャウハラを軽く抱きかかえ、元の椅子へ座らせた。
その足でアズハールとナルジスの間に立ち、二人の肩を叩く。
「次は二人一緒だ。お前らは仲がいいからな」
アズハールは唾を飲み、ナルジスは澄ました顔であったが、わかりやすく瞳を輝かせた。
「何だ、嬉しい反応をしてくれるじゃないか。さっきもそういう態度だったらいいんだ。
気持ちよくなりたいなら素っ気ない態度はやめてくれよな」
アズハールの足首にはフリチラリアが揺れ、ナルジスの背中にはマドンナリリーが咲いている。
ラバーブはそれらに触れ、二人の呼吸を乱し、溢れた香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「最後は先生に締めてもらおう。弟子にいいものを見せてやれよ」
師が物憂げに目を伏せると、長く細やかな睫毛が太陽の光を反射して金色にきらめいた。
ぼうっとしていたジャウハラの目に、ラバーブが師の香りを解き放つ様子が映し出される。
最初から誰もマントを羽織っていなかった。
3人の花模様に触れた手が象牙色の衣服を脱がし、太股の内側に伸びた。
たちまち絢爛なダマスクローズが花開き、濃厚で優雅な薔薇が香り立つ。
花模様がされることは同じだったが、
視界に入る薄布が不自然に透けているのに目が釘付けになる。
そんな状態だったために、確かめる方も片手で撫でるだけでは足りなくなった。
「もうこの辺でいいか……」
ため息混じりにラバーブが言った。
そのため息は、師の香りを惜しんで吐き出されるものだった。これで終わるには惜しい、と。
「今年の大祭もウルードで決まりだ。第一級の地位は揺るがなかったようだな」
「はぁ……今年もか。祭りの度に引退を願ってるというのに、いつ辞めさせてもらえるんだ」
「お前を超える者が現れてからだよ。残念だが、それまで精を出してくれよ。
労いついでにそれの始末をつけてやるよ。な?」
指定したものには手をつけず背骨を撫でると、師は体をぶるっと震わせた。
その後で確かに頷いた。
「お前ら、先生が可哀想だから望みを叶えてやってもいいだろ? もうこんな風だ、すぐ済む」
ラバーブは私たちに向けて言った。
6つの目が互いを見合わせる。
ヴァイオレットブルー、プラチナグレー、エメラルドグリーン。
アクアマリンの瞳をした美しい男が、全身を淡い薔薇色に染めて辛そう、と目で言い合う。
断る理由が見つからなかった。だって、師は頷いたのだから。
3人とも首を縦に振ったので、ラバーブは満面の笑みで薄布越しに膨らんだ果実を握った。
師は自分の口を手で覆った。それでも声が漏れた。
「まあ、そうでなくっちゃな……先生が一番えっちな姿を見せてくれなきゃいけない。
そうだよな」
師がとろける頃には、ラバーブの手はそれでふやけ、この日の暑さは極限に達した。
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