宝石の娘-7 二度目の満月の下に踊り子は水の一族と舞い踊る


再 び

ジャウハラの感度は抜群によかった。

アズハールにしろナルジスにしろ、『慣らし』の一環で踊り子に必要な感度をみた。

二人とも手応えは十分だったが、ジャウハラは格別の反応を示した。

生来の賜りものによるところがまずあり、

加えて、幼い頃からマタルの近くで香りに触れていたことが影響している。

「ハーディーとヤーサミーンの子を世話している。この頃、手に余るようになってしまった。

そうなった時は君に頼むよう言われたんだ。もう私の手に負えないと感じる。

ジャウハラを頼みたい」

マタルの打診には驚かされた。

ジャウハラは何者にも侵された痕跡がなく、さらに、刻印の名のままに無垢だった。

皮肉なほどに、アルマーは無垢とは程遠いことが多い。

だからこそ、他者に苛まれることなく隠されたアルマーがいたのは驚きだった。

それにしてもまたハーディーだ。弟子が増える度にハーディーの存在がちらつく。

一体、何をたくらんでいるのか。

彼が消息を絶って久しい今となっては知る術はない。

生きているかどうかも手掛かりがなく、死んだか、国を出てしまえば探しようがなかった。

そう思いながら、ウルードは地上に見立てたベッドから浴槽へ移動した。

体を浸せば、水面に浮かべた花びらが肌に引き寄せられた。

ジャウハラのくびれに吸いついたそれは匂うほどの官能を誘う。

大したくびれもなかった頃に、マタルの手が宝物を扱うように触れた時のことを思い返す。

少女を預かる際に、ルーティンにしているというオイルマッサージの手法を教えられた。

欲望の対象が同性に限られるマタルの手が、若く瑞々しい肌にオイルを揉み込んでいく。

二人の様子はある種の衝動がないせいで酷く穏やかだ。

だが、それがかえって見る者を刺激する。

オイルの香りも快い。

複雑で多様な配合のオイルレシピは、何枚にもわたってハーディーの筆跡で綴られていた。

ハーディーに対するマタルの心酔ぶりは知っていたが、

そうであってもアルマーが他人にレシピを明かすなんて信じられなかった。

13種のオイルレシピはハーディーが秘して明かさなかったものだ。

相手は子どもで、親子ほど年が離れている。欲望の対象でもなく、自制心を持ち合わせている。

そのどれもが、アルマーを前にしたなら意味を為さない。

ジャウハラが侵されなかったのはハーディーのオイルレシピがあったためだ。

これにも外れ物が用意されていた。

私が遊びで作った13番とは事情が異なり、特別な喜びに痺れる番号だった。

アルマーが本気を込めたものは、それを嗜む者に作り手と肌を合わせる気分にさせる。

男のマタルのために用意されたのだから、どこにどう使うかは、言わずと知れていた。

それによってジャウハラは守られたと推測する。

13番の秘密はハーディーの娘には今は内緒だ。

私はジャウハラを抱き寄せ、額の花模様に口づけた。

特別指導といっても師にできることは少ない。

単なる道案内。慣らすのがせいぜい。

あとは自分でどうにかするしかない。水の一族との交渉はすべて一発勝負なのだから。

とはいえ、ジャウハラには天性の才があるようだ。

師が弟子の中で果ててはいけない決まりだというのに、思わず一線を侵しそうになる。

もしかすると、ジャウハラに『慣らし』は必要のないことだったのかもしれなかった。

「ジャウハラ、契約の夜のことを思い出してごらん。

『月が死んで、再び生まれ満つる夜に』――――サマルの言葉の続きに思いを馳せるんだ。

君はどこで彼と会おうというのか。

この地図には国中のすべてが描かれている。さあ、わかるはずだ。その指で示しなさい」

ジャウハラは、ウルードが目の前に広げた地図を見て、

ラバーブが持っている地図に似ていると思った。

薬草摘みの時に私たちはラバーブのくたびれた地図を見せてもらう。

その地図にラバーブは自由に書き込みをしている。文字に絵に、記号ともいえない走り書き。

しかも、それが天然の薬草庫に偏っているのに対し、

この大きな地図は繰り返しアルマーの前で広げられたにも関わらず、

ひとつの書き込みもなかった。

代わりに魔法の痕跡が静かに漂っていた。

「言葉の続き……」

サマルのことを考えると、何度も花降る感覚に囚われる。今もまた。

自然と頬が薔薇色に染まり、澄んだ瞳にヴィオラの三日月が浮かぶ。

「どこで……」

そっと、ジャウハラの手にひと回り大きな手が重なった。

後ろ頭を撫でられ、首筋に体温を感じる。

秘密を共有する甘やかな声がささやかれる。

鳥肌立って、ジャウハラは震えた。

青白くも美しい手が、指先が、ここだよ、と告げる。

待ち遠しいよ。早くおいで――――

「ここだわ」

魔法の痕跡は吹き去り、新たな魔法が地図上の一点で渦を巻いた。

指は沙漠を示していた。

沙漠の中にオアシスの絵が描かれていた。すぐ下に『かつての』という文字が書かれている。

「そこは枯渇したオアシスですね。水の枯れたオアシスはこのように表記されるのですよ」

師弟と一緒に地図を覗き込むサーリーが口を開いた。

「廃墟か。街で売ってる地図には載ってもない」

「ええ、表向きは何もないことになっていますから。

廃墟であることを知る者でも、地下水が通じていることを知っている者はどれほどでしょうか。

人々がそこを立ち去った後に再び泉の水は満たされました。

水の一族も遊びに来ると聞いています」

「聞いていますって、そればかりだ。王の使者の報告を信じていいんだろうな」

「みながみな、イルファーンのようではないのですよ」

「そんなことわかってる。だが、王の使者は存外にいい加減だ」

「まあ、私が直接見て知った訳ではないのは確かです。

ですが、ジャウハラが指し示したことが答えと言えるでしょう」

二人の男は同時に、三日月が透き通って消えた瞳を見据えた。

「ふん、そうか。じゃあ駱駝の用意がいる」

「こちらで手配いたしますからご心配なく。人に慣れた乗り心地のよい駱駝を用意しましょう」

それが満月になる前日のことだった。

『慣らし』を終えて、ウルードとジャウハラは宝石治療院へ訪れた。

サーリーは二人を快く迎えて地図を広げ、夜には数多ある部屋を宿として提供した。

次の日の朝はよく晴れ、抜けるような青空が広がっていた。

その青以上に深い瑠璃色の花布を駱駝の背に被せた。

花布は、祝事のための伝統的な模様が刺繍された更紗だ。

更紗の両端には紫に青、水色、白に透き通った宝石が連なって太陽の光を四方八方に弾く。

瘤の間にまたがって、駱駝が立ち上がれば視界は一気に高くなり、大きく揺れる。

ジャウハラは持ち手をぎゅっと握った。

それでも、乗り慣れない体は煽られ、振り落とされないようサーリーが後ろから支えた。

進み始めてすぐ、ジャウハラは体を後ろに傾けてサーリーを見上げた。

「サーリー院長、ごめんなさい。駱駝に乗るのは初めてで」

「構いませんよ。駱駝だけでなく、沙漠へ出るのも初めてなのでは。

あれから変わりありませんか?」

あれから――――燃えるような瞳と交わしたことを思い出し、ジャウハラは頬を赤らめた。

見下ろすサーリーの肌は真白く、太陽の下ではますます純度が増したように見える。

清らかで心安らぐ香りがする。それなのに、胸が高鳴ってしまう。

ウルードは気楽な一人乗りを決め込み、二人乗りの駱駝に背を向けて少し先を進んでいる。

「ああ、無粋な質問でした。

君にとって今は変化の時ですから、様々なことが大きく変わってばかりなのに。

しかし顔色はよいですし、体調も悪くないようですね。目的の場所までまだ時間が掛かります。

差し支えなければ、君のお母様の、ヤーサミーンの話をしてもよろしいですか」

両親のことに限らず、師のウルードが過去の出来事を話すことは少なく、

養父のマタルから父のことを聞くことはあっても、母の話はほとんどなかった。

そのため、サーリーの申し出は純粋に嬉しかった。

「はい。身近に母の話をしてくれる人はいません。どんな話でも聞きたい……」

両親の顔は覚えている。幸せな記憶。そして理由の知らされない別れ。

けれど、はっきり覚えていると思っていた両親の顔は知らない内にかすんでいた。

その分、悲しみの記憶も遠のくかと思えば、突然に刺すような痛みに貫かれる。

どうして私を置いていったの? どこに行ってしまったの? 今も生きているの?

再びサーリーを見上げると、

安堵と気まずさがない交ぜになった中に燃えるような色がほの見えた。

よかった、と口にする。

「今更隠し立てする気はありませんが、彼女を恋慕っていたのは本当です。

ただ、ウルードの物言いとは違っています。憧れ、そういう類ですので。

ヤーサミーンは美しい人でした。外見だけでなく、心の内から美しさが溢れていました。

彼女はいつも笑顔で、逆行に打ち勝つ強さも持っていました」

そこで言葉を切って、こちらを見つめる。

「瞳の色はハーディーを思い出しますが、君の髪は母親譲りの綺麗な髪ですね……」

サーリーはダークブラウンの髪を一房手に取って、愛おしそうに眺めると唇を寄せた。

「こんな愛らしい子を手放して、信じられない……けれど、きっと理由があるのでしょう」

そう言って、サーリーの真っ直ぐな長い髪がジャウハラの顔をさらさらと覆った。

先生が振り向く気配はない。

けれど、この熱は首元のアクアマリンを熱くさせてしまう。

それでも、体も心も心地よくほぐれてゆくせいで、

ジャウハラは瞼を伏せて睫毛を微かに震わせた。

ハーディーは、ある日突然にして消息を絶った。

妻のヤーサミーンとともに姿を消したという。

二人そろってマタルの前に現れ、ジャウハラを預けたのが最後だ。

時を経てようやく、アルマーの娘を預けるために私を師に仕立てたと知る。

マタルに託したものの中にはオイルレシピの他に小箱があった。

ハーディーが使っていた祈りの小箱だ。

波打った稜線は大輪を描き、月と星と白い木が装飾されていた。

埋め込まれた宝石はヴァイオレットブルー。最上と謳われる星宿りの石だった。

これを手放したことが意味するものに戦慄せずにはいられないが、そうと決まった訳でもない。

ハーディーの番いだった水の一族のワジュドは、前の首領でもあった。強い魔力もあった。

ちょうどあの頃、彼が死んだこととまったくの無関係とは思えない。

差し迫った事情があったのだろうか。私にはわからない。

だが、そうでなければ、ジャウハラを手放す理由がそれこそわからない。

つい先日、ドゥアーの手でヴァイオレットブルーが装飾された小箱は姿を変えた。

浄化を高める小箱を生み出す者は他にもいるが、

この小箱に触れるのはドゥアーが相応しいと思ったのだ。

ハーディーはドゥアーを見込んでいた。

ナルジスの一件で、身の堅いドゥアーと恋人でない形で接点を持ったのはそういうことだ。

ウルードはそんなことを考えながら駱駝にまたがり、自ら作った薔薇煙草の13番を咥えていた。

鼻腔に広がる匂いのために、微かにとろける感覚を味わう。

下腹部に集中する感覚にたゆたいながら、自己陶酔もいいとこだと内心なじる。

気を紛らわせる方法はこれくらいしか思いつかなかった。

後方のジャウハラが発する熱が伝わってくるのだから仕方ない、と自己弁護も忘れない。

アルマーが求めてやまない宝石治療の御手みてを持つ院長と、

はめられたとはいえ、見守ることとなった可愛い弟子が身も心も結び合わせるのは少々妬ける。

まあ、目的地に着くまで枯れ果てなければそれでいい。

今夜の満月の下にジャウハラはサマルと踊る。

魔力という果実を餌にして契約を結び、より大きな恵みを受けるために。

アルマーにしかできない。

そして、これが一つしかない私たちの生きる道だ。

そう思いながらも、本当に気に掛けるべきはサーリーなのではないかと思う。

サーリーは落ち着き払ってみえても平静さを失っている。

これから水の一族の首領と会おうと言うのに。

不埒、そんな言葉が頭に浮かぶ。

別段何をしようと勝手だ。止めはしない。

だが、アルマーに酔って狂った訳でもなく、ジャウハラそのものの虜になった様子は目に余る。

そんな状態で記録する者が務まるだろうか。

かつて、そこには清らかな水が滾々と湧き出ていた。

沙漠に生じた泉を中心に緑が生い茂り、鳥や動物が集まれば、さらに緑地は広がり、

豊かな水辺となった。

やがて人が住み始めたが数は少なく、多くは訪れては祈り、まもなく立ち去った。

聖地として祈りと沐浴の場とされた小さなオアシスは、

地下水の枯渇により瞬く間に廃墟と化した。

しかし、枯渇したはずの地下水は再び溢れ始めていた。

一度、交易路から外れたオアシスが息を吹き返したとしても、人が通うに至らなかった。

人知れぬ楽園は、地下で繋がった路を伝ってやって来る水の一族の遊び場となった。

祈りと沐浴のために使われていた建物は、アルマーの舞い踊る庭となる。

この満月の時に、アルマーの女は二人の男とともに沙漠を越えてきた。

交渉する者、導く者、記録する者。

夜になれば、満月の下で甘美な儀式が始まる。

アルマーはその時が訪れるのを待っていた。

水の一族に心ゆくまで果実を食わせるために。自らの魔力を与え、水の恵みを得るために。

夜の時は訪れ、花模様を刻んだ張本人が姿を現した。

夜は密やかな空気を漂わせた。

頭上には一点の月が輝き、地上では湧き水の向こう壁に星が息づいている。

それは月光の滴を集めて、自ら光る鉱床だ。

辺りはぼんやりときらめき、月の光によって幾重もの美しいベールを作り出した。

それらを軽やかにかいくぐり、姿を見せたのは酷く魅惑的な男だった。

突然に底知れない気配が強く匂った。

そのため、娘は彼に気がついた。

現れた水の一族の首領は、自分に見惚れている娘の頭を撫でた。

祈りの形に握った手を両手で包み、口を開く。

喉が渇いた駱駝ニハルに癒しが約束された。満月の夜に、ちゃんと僕を見つけることができたね」

ジャウハラ、と名を呼ぶと、食欲をそそられる匂いを立ち昇らせる。

喜びに体を震わせるので、早く食べてしまいたいと思う。

「この夜、この愉楽の泉で、美味なる果実を食らう戯を行う。

僕の力を、恵みを、惜しむことなく、君にあげる」

ジャウハラは体を上気させて、惹かれてやまないという顔をしている。

何だか、目に見えない花びらが吹雪となって押し寄せる気持ちだ。

この感じがクセになる。

口上なんかすぐ終わりにして抱きしめたくなった。

でも、可愛い口が言葉を紡ぐので、もう少し待つことにした。

「ニハルにもたらされた泉がいつまでも尽きませんよう。

あなたとの夜の語らいに歌を口ずさみ、水の中で花開き舞い踊ります」

サマル、と男の名を呼べば、ふわりとした笑みが向けられた。

口上はもうしばらく続けなければならない。

「……そして、ここに、導く者と記録する者と席を同じくすることをお許しください」

少しの距離を取って、師とサーリー院長が頭を垂れ、膝を折り合掌している。

「導く者と記録する者か……一人はファラフの番いか。

アクアマリンの瞳と盛大なダマスクローズの花刻が見える。

さて、もう一人は月の王の末裔だ。

そのくせ、月のない夜に生まれ、王座を手にし得なかった者」

今までの甘やかさが打って変わり、冷やかな声で言う。

「そもそも、僕は見られることが嫌いなんだ。本当はずっと遠くへ行ってほしいくらいだ。

でも、そうだねえ。その目に焼き付けてもらわないといけないことだってある」

遠回しな言い方にジャウハラは首を傾げた。

水の一族はまわりくどいことを好まない。

是か非か、許すか許さないか、どちらかを即答すると教えられていた。

是であれば、遠巻きに事を見届ける。非であれば、事の後に再現をする。

どちらにしても記録が行われる。

「ねえ、ジャウハラ。君と僕は番いなんだ。蜜月の間に、僕の他にも交わりを持っただろう?

そういうことは透かし見えてしまうんだよ……

人が色香の石を持った者を放っておかないのはわかる。

でもね、惹かれているんだろう。そいつがいいの? 僕よりも?」

サマルはのんびりした言い方をする。

けれど、責められているのはわかる。

ジャウハラには、温かく柔らかなものに包まれながら、首に刃を押し当てられた心地がした。

師のウルードは心を揺らさずこちらを見据え、院長のサーリーは一瞬であったが狼狽えた。

ふぅん、と挑戦的な声色が響く。

「そうか、導く者ではないようだ。図々しくも記録する者か。

鮮やかなルビーレッドの思い上がった奴。その色は、嫌いだなあ。

月の加護を受けられない者が僕の獲物に手を出して、のこのこやって来るなんて。

ただで済むと思っているのかな」

不穏な言葉にも華やかさが漂い、ジャウハラの体の内で熱がゆったりと渦巻く。

それに気づいたのか、サマルは頭上から口づけを降らせた。

髪から額、頬へ。唇へ到達すると、中を舌で探り始めた。

たっぷりと時間を掛けて。

「やっぱり美味しい……ジャウハラ、我慢できないよ。

踊ろう。僕は同席を許す。あいつらに見せつけてやるんだ。

さあ、花を重ねる君に僕の蜜液を注ぎ、満月の下で踊り明かそう。

毒にも変転する僕をどうか蜜に変えておくれ。

いつの日か君が泡になって消えてしまうまで……離してあげない」

艶然と微笑むサマルは、笑みの形のままで冷酷な視線をサーリーへ向けた。

「再現なんてだめだよ。こんなに気持ちのいいことを許すなんて、できない」

凄みを利かせ、鋭い目をして微笑む。そうした姿も色気が迸る。

「ああ、僕のアルマー。君は無垢が過ぎるみたいだ。無垢は清らかでいい。

でもね、いくら無垢だからって僕が極上だってこと、わからないなんて言わせない。

だって、それじゃあつまらないよ。

君は、稀で、価値があって、危険に満ちた、上等な食いものだ。

僕にはそれがわかる。それなのに……まあね、そんなに怒ってはいないよ。

あの男ともっと……うん、どんなことをしたっていいんだ。

もっと色んな味を知るといい。最後は僕が食べてあげるんだから」

甘く湿った音がする。サマルと自分が立てる音だった。

サマルの抱擁に身を任せると、心がふわふわして、体が自然と舞いを形作った。

「至上の色香の石を持って生まれた者は、どんな風にも踊ることができる。

僕に見せてよ、ほら。踊って、もっと、そう……」

促されるままにそれは行われた。踊る、踊る、踊る。

細やかな滴を噴き出して匂うジャウハラを一身に享受して、サマルは満ち足りた。

月光に濡れる夜の中、そうしてアルマーと水の一族は踊り戯れた。

その様を導く者はしげしげと眺め、記録する者は狂おしい瞳で見つめた。

神秘と色香が匂い立ち、その場にいる者は誰しも酔いを覚えた。

人目に触れぬよう大切に守り育てられた無垢の者は、神と魔を惑わし魅了する。

晶華の水資源はますます豊かになり、清らかであることが約束された。

少なくとも、アルマーの命の分だけの約束が為された。

この年、上質な鉱物が目に見えて増え、さらには稀少な星宿りの石までも採掘された。

人々は首を傾げながらも幸運と言って喜び、事情を知る者は何事かを察した。

その要因となったジャウハラは、香りものの作り手となり、やがて13番の遊びを覚える。

ヴィオラが香るそれは、青と紫の狭間に惑う色をして水に溶けて痺れさせる。

象牙色のマントの者に香りものはいりませんかと問われたならば、

迷わず買うことをお勧めする。

運がよければ、この上もない喜びを味わうことができるだろう。

 2-7