鳥籠-3 Maschera in the mist / Camel
蕾 が 開 く と き 奇 術 師 は 薔 薇 の 下 で 秘 密 を 語 る
砕け散ったダイスは、気づけばジョーカーの死骸になっていた。
「こいつは掃除が必要だ。残しておくと碌なことがない」
奇術師が言うと、すかさずA.G. が鷹の羽根箒で掃き集め壺に入れた。
壺の中では黒々とした火が燃え盛り、塵も残らず消えた。
「ディオス」
口をついたのは彼の名前。慣れ親しんでいた名前。
「その呼び名は懐かしいね。くすぐったいほどだよ」
「ぼくを飼い殺した男の名前」
「否定はしないよ。"Jewelry" とはそうなる運命だ」
テーブルを叩いて立ち上がると、椅子が弾みで後ろに倒れた。
同時に、足元から色とりどりの風船が舞い上がる。
「ご静粛に願います。昔語りはまだ終わっておりませんよ。
紳士淑女の皆様は、礼儀正しくあるべきでは?」
奇術師を睨むと、ことさら怯えてみせる。
「おー怖い。椅子がお気に召さなかったなら新しいのをご用意致しましょう」
両の膝裏に痛みが走ったかと思うと、体勢を崩しクッションに腰が沈んだ。
白の木枠に淡いピンクの布張り。見覚えのある椅子に息を飲む。
「皆様のご協力にお礼申し上げます。昔語りを続けると致しましょう」
再びミステリーボックスから飛び出したのは『C』。
「おや、レディ―達を差し置いて私めの出番のようですね。
常は笑いを賜るピエロではありますが、
時にはナイトのように麗しの姫君達の先を開こうではありませんか」
「奇術師、冗談が過ぎるわよ。ナイトなら余計なおしゃべりはいらないわ、スマートになさい」
皇女が子どもに言い聞かせるように口を挟む。
「失敬、しがないピエロの戯言にございます。
今宵お話致しますは、無知な怪物のとるにたらない恋のお話ーーーー」
角を隠した青年が、"Maison" を訪れたのは春の頃。
うららかな陽気はまるで眠り薬。腐った果実のように思考を緩慢にする。
静まった "Maison" は人の気配を感じさせず、
庭園の隅に程好い茂みを見つけてしまったことを言い訳に、午睡と決め込むことにした。
この時のことを振り返ると、おかしなほどに思考が鈍っていた。
金色の午後は怪物の思考をだらしなくすると知るのは少し先のこと。
一眠りして目が覚めた。
眠気覚ましに "Virgin Series No,2-SNOWFLAKE" を吸い、
シルバーニックスの色煙をぼんやり眺めた。
匂いのないはずのシガレットから匂いがする。
そう感じたのは間違いで、ほのかに匂う甘い香りは薔薇の茂みのせいだった。
誘われるまま花房に顔を近づける。甘い匂いにすべてとろけてしまう。
庭園は小規模ながら手の込んだローズガーデンだった。
白山羊の手袋を突き刺す棘を気にもせず、血の滲んだ手で薔薇の房を摘み取った。
透明感のある薄いピンクに色づき、甘い香りを漂わせる。
スプレー咲きに花開く様子はふわりと可愛らしい。
思いつきにさらに数本ちぎり、リボンで結んで花飾りにした。
言付けの手紙はすでに我が手を離れ、真夜中には受取人が見つけるだろう。
用は済んだ。午睡もたっぷり取ったことだと立ち上がった。
「お花、盗みはいけないの」
気づくとそばに少女が佇んでいた。しかもシャツの裾をつかまれていた。
「盗み?ああ、ちょっとばかりお借りするだけだよ、おちびさん」
「返してくれるの?」
「もちろん。キャンディもおまけしよう」
「うそ」
少女は眉根を寄せ信じようとしない。実際のところ嘘でもあった。
少女の顔かたちは幼いながら美しく整い、いずれは美人に成長するであろうと予感させる。
裾をつかんでいた手を取り、私は腰ほどの少女の目線に合わせてしゃがんだ。
両の手首には薄いピンク色をした薔薇のリストレット。
「キャンディで満足できないお姫様、どうしたら許してくれるのかな?」
その言葉を聞いた途端、少女は目を金色に輝かせた。
溢れる花蜜のように燦然と。
「罰をうけるの。お花を盗んだ罰は、わたしと鬼遊びするのよ!」
勢いよく手を引かれバランスを崩した花盗人を笑い、手を繋いだまま少女は無邪気に駆け回る。
ドレスの裾をひらひらとさせる様は、物語に登場する小さな薔薇の精だった。
その姿は眩しく、ここから逃れようとする思考を停止させる。
金色の午後に同じ眼をした少女の遊びに付き合うのも悪くないと思えた。
散々遊び回って絡まりながら芝の上に寝転がった。
息を切らせて軽快に笑う少女を驚かせようと、私は角を伸ばして隠した姿を見せたのだ。
ちょうどお茶の時間になる頃だった。
人の気配がして、少女の名を呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢様、クロードお嬢様。どこにおいでですか?」
少女は使用人の声がする方向に顔を向けた。
「まあ、こんなところにいらっしゃったのですね。
お髪(ぐし)もお召し物もこんなに汚して、いけませんよ」
「そんなことはいいの。素敵なお友達ができたの」
少女が振り返った時、そこには何の姿もなく、小さな庭園を風が吹き抜けた。
角を持った青年は別れも告げずローズガーデンから抜け出していた。
次に "Maison" を訪れたのは夏の頃。
夜の帳が降りたばかりの刻は生温い空気に包まれていた。
あれから少女の噂を集めた。
"Maison" の庭で出会った少女は、フォンテーヌブロー家の嫡男に買われた "Jewelry" だった。
眼球オークションに商品として出品され、
幸か不幸かクラウディオス・フォンテーヌブローによって落札された。
このように売買の対象となる者は "Jewelry" と呼ばれ、虐げられるため数年と生きていられない。
しかしながら、あの時の少女は生きて大人へ近づきつつあった。
いやにロマンチックな香りだと思った。
昼間であれば、ロゼット状のサーモンピンクの群がうっとおしいほどだろう。
柵を飛び越えて庭園に降り立った。
ローズガーデンは薔薇が咲き誇り、夕闇の中で優しくその存在を主張する。
巷で覚えたキャラバンの歌を口ずさむ。月星のない長い夜を旅する歌だ。
今夜は、あの少女が美人に育ったか確かめるために忍び込んだ。話の種になると思った。
クラウディオス・フォンテーヌブローに宛てた言付けの手紙は、
我がポケットの中で妖しい文字を秘めたままだ。
送り主のニュクスとの関係など興味もなく、
彼がチップをはずみさえすれば運び屋の仕事は大歓迎だ。
歌が砂漠に咲く薔薇を売る場面にさしかかった時、誰何の声がした。
「誰かそこにいるの?」
明るい小鳥のような声。胸を弾ませているに違いない。
「もう見つかってしまった。今晩は、お嬢さん」
東屋のある一角へ躍り出る。
立ち上がった影がわずかに身構えたのがわかった。
思い描いた相手と違ったのだろう、驚きと怯えの色を帯びる。
「C. F. 」
目配せすると瞬く間に頬を薔薇色に染めた。
C. F. とはクラウディオス・フォンテーヌブローのイニシャルコードだということは言うまでもない。
「貴女を愛しく想う殿方より手品のお届けに参りました。
この度は心躍る魔法をお披露目致したく存じます」
嘯く奇術師の言葉を信じたか定かではないが、少女は笑顔で珍客を迎え入れた。
「まあ、手品?手品は大好きよ!」
「素敵な恋人をお持ちのお嬢さん、お似合いの可愛らしい贈り物を差し上げましょう」
クラウディオスの恋人殿がいない夜はさぞ寂しいことだろう。
手品で気を紛らわせるにはもってこいだ。
「どうぞ、お席にお戻りになっていただけますよう。こちらの見事な薔薇をご覧あれ」
庭園から拝借した薔薇のひと房。素早く萼から花片をひと片。
もうひと片をちぎって花片にキスをすると、
命を与えられた蝶のようにほのかな光を宿して空中を舞った。
新たに蝶を作り、つがいで飛ばすと浮連(うかれ)て戯れた。
リンデンの枝をタクトと振って、少女の周りを光り舞わせた後、
紙吹雪のおまけを吹かせて一礼した。
「素敵!すごいわ!」
手を合わせて喜ぶ少女の手首に、光を宿した蝶がひらと留まった。
手首には以前と同様にリストレットが結ばれ、蝶はその薔薇の上で翅を休めている。
その姿にしばし見惚れた。
少女は美しく成長していた。伸び育った肢体、胸のふくらみ、真白い肌、長い髪。
ひざまずいて少女の手を取り、蝶とも手の甲ともしれず口づけをした。
「お褒めに預かり光栄でございます」
少女はきらきらと笑い、蝶ははらはらと散った。
命を吸われた蝶のように、私の中の何かが吸われたかのように空虚を感じた。
空虚?予想だにしなかった思いを振り払うように頭を振った。
そして、上目遣いに少女を見つめた。ただの小娘だ。
「あら、気のせいかしら。不思議な眼をしているのね」
一眼は白銀を、一眼は紅玉を抱く奇っ怪なこの眼のことを言っているのだ。
「よく気づかれましたね、odd-eyesというのですよ。こいつの色を覚えておいてくださいますよう」
片手で顔半分を隠し、再び露わにすると、紅玉は青玉に変わった。
「まあ!どうなってるの!?」
「魔法の種は内緒でございます。ご満足いただけたでしょうか?お姫様」
指を立てて悪戯っぽくウインクする。
こんなフェイクよりお前の眼の方がよっぽど珍しいことに気づいていないのか?
高価と言い換えても差支えない金色の眼。
「内緒だなんて、可笑しな奇術師なのね。そこは "No Secret Trick" でしょう!
でも素晴らしいわ!魔法の贈り物なんて初めてよ」
はしゃいでひとしきり笑った後、ふと少女は首をかしげた。
「私、あなたに会ったことがないかしら……?まだ小さな頃、あなたに似た人を見たことが」
「気のせいでありましょう。奇術師は、この町は初めて立ち寄ります。
このような素敵なローズガーデンなら忘れる筈もございません」
言葉を遮って締めくくりに掛かった。
「さあ、お終いの魔法でございます」
彼女の呼吸を目測り、それに合わせてリンデンの枝を振る。
「お姫様を、束の間の眠りへご招待致します。睡魔は夜にのみ訪れる決まりはないのですよ」
リンデンの枝を少女の額に当てた。
薄い瞼の下から重たげにこちらを見ている。けれどもその瞳にはすでに霞みがかっていた。
「よい子だから、今夜のことは忘れてしまいなさい」
そう言って、暇(いとま)の言葉を耳元に寄せた。
染み付いた習性のためか、近くになったその耳を何の気なしに舌先で舐めて、優しく噛んだ。
少女が眠りに堕ちるまで見届け、そばにあったローブを肩に掛けて立ち去った。
去り際に薔薇の群の騒めきを感じた。
ああ、ほんとうにうっとおしい薔薇だ。
三度目に "Maison" を訪れたのは秋の頃。
庭園は相変わらず薔薇で溢れていた。
深い真紅。ベルベットの質感。香り高い希少種を選んで造られたローズガーデン。
闇の中では淑やかに鳴りを潜め、その分優雅さを漂わせる。
眠りを妨げるには頃合いの夜だと感じた。
"Maison" で飼われた少女は女性になり、すでに私の見せかけの年齢を上回っていた。
仕事をしくじった。
おかげで食事にありつけず苛立っていた。
気がついたらというよりも、見返りを求めて "Maison" に辿り着くと、
寝処の窓が開いているのを見つけた。
その窓辺には、蕾が花開いた印象の女性が立っていた。
窓枠に肘を立て、ぼんやりと遠くを見つめている。
彼女が待つものは今夜も訪れることはない。
それを知ってなお待つ彼女が目を伏せた隙をみて声を掛けた。
「夜を持て余したお嬢さん、こんな夜更けに窓を開けていると悪いものが入ってきますよ」
突然の訪問者に驚くことなく、彼女は見定めるように目を細めた。
「どこから入り込んだのかしら……悪いものならもう入ってきているようね」
「そう、私のようなモノがね」
にっと笑って、ガーネットのナイフで刈り取った薔薇の頭を差し出した。
「花盗人は重罪よ」
「では甘んじて罰を受けましょう。罪深い男の処罰はいかが致しましょうか?」
「おかしな人ね」
彼女は短い思案の後、柔らかな唇を開いた。
「それならひま潰しにお話相手になってちょうだい。夜なんて長いばかりで退屈だわ」
彼女は薔薇を受け取って、花占いのように一片ちぎった。
「この薔薇が全部ちぎり終わるまでお話をしてみなさい。退屈な話はだめよ」
諦めた表情を浮かべていた彼女が不意に微笑んだ。
真に蕾が開いたのはこの時だった。
旅先で知った話を聞かせた。
遠い異国の話、下町の祭り、神々の逸話。
中にはくだらない作り話もあったが、彼女は目を輝かせて聞いた。
とりとめもない話に終わりなどないように思えた。
旅そのものの話をねだられたこともあったが、どうも曖昧で毎回はぐらかすしかなかった。
記憶にあるのはいつも暗闇と体温で、話して聞かせるものがなかったのだ。
「ヒュプノス」
秋の間 "Maison" へ通うことが続き、知らずに私はそう名乗っていた。
「夢の神と同じ名前ね」
気分がいい時には彼女も話をした。
薔薇や庭師の話など "Maison" で起きた出来事が多かった。
窓を隔て語り合う関係が終わりを告げたのは、冬を目前にした夜だった。
泣き腫らした薄い瞼。抑制しても震える細い肩。
元気がないとからかって、手を取って庭へ連れ出した。
窓の近くは灯りが漏れて顔が見えてしまうから。
「薔薇の下で」
秘密を語る時だと感じだ。旅立ちも近づいていた。
薔薇の茂みに隠れて、初めて自身の旅の話をした。
「私は怪物だよ」
「でも、やさしい怪物だわ」
クラウディオスが巻いたであろうリストレットを解き、手首にキスをする。
リストレットはかつて手首の痣を隠すものだったはずだ。
いまだにそれをしているのは、見えない傷のためか、主人に対する従順のためか。
「貴方を知っていると思ったのは間違いではなかったのね。
可愛らしい魔法を見せてもらったわ。その前は鬼遊びを」
言い終わる前に、唇で唇を塞いだために言葉は途切れた。
蜜を求める感覚で溢れ、貪るように彼女の唇を求めた。
顔が見えなくとも、紅潮して濡れた彼女を容易に想像できた。
もちろん、それは彼女だけではなかった。
「絶望にあった時は名前を呼んでくれたらいい」
舌先に花片を乗せて、真実(ほんとう)の名前を伝えた。
けれども彼女にはきっと必要はないだろうと思ったが、
心の隅でその時がやってくることを知っているような気もした。
疲れを感じたとき、角から流れ出た液体を注いで彼女を深い眠りに誘った。
まさかあの時の少女に名前を教えることになろうとは思いもしなかった。
それも、名前を呼ぶ時がやってこようとは思いたくもなかった。
自分の体内を禍々しいものが這い上がってくる。
衝動から覚めたとき、片手に握ったガーネットのナイフから血が滴っていた。
眼前には2体の骸が折り重なり、少し離れてさらに一体が霞んで見えた。
そして庇うようにして立つ自分の後ろには、無残な姿の彼女がいた。
長かった髪は乱暴に切られ、足元に散らばっていた。
彼女は、両腕で自身の身体を抱えて震えていた。
嗚咽とも叫びとも判別できないのは喉を潰されたためで、
片眼はえぐれて空虚な孔になり、涙と血が溢れ出していた。
手から力が抜け、ナイフは音を立てて落下した。
霞んだ視界は自身が流す涙のせいと知り、肩で息をしながら彼女を抱き締めた。
触れたら壊れそうだと思ったのは一瞬で、息ができなくなるくらい強く強く両腕で抱き締めた。
しばらくそうしていると、虚ろな目がナイフを捉えた。
落ちていたそれを渇望する彼女の意図に気づいた。
「死にたいのか?」
震えながらも彼女は頷いた。
ナイフに視線を遣ると、近くに紅い塊があった。
それは潰れた眼球で、傍に転がる保管用の眼球ケースがすべてを物語っていた。
手引きをしたのは使用人だろうか、欲に目が眩んで共謀したのだ。
金色の眼球は価値があるのだ。
飼い主に存在を許された彼女であっても、飼い主を囲む人間には許されなかったらしい。
虚ろな孔から流れる血を含んだ涙は、宝石のように綺麗だった。
眼球がなくとも涙は出るのだな。
頬を伝う滴を舐め取り、彼女に甘く囁く。
「すべてを忘れさせてあげよう。安らかなる死を君に捧ぐ」
白と淡いピンクを基調とした一室は彼女の部屋だとわかった。
言い方を変えるなら、飼い主が彼女のために設えた檻だ。
そう、美しいものを閉じ込めた煌びやかな鳥籠。
死体の転がる隣室が嘘のように思える。
ひとまず彼女を寝台に横たえ、シーツを裂いて目隠しをした。
たいした止血にならず、すぐ血が滲んだが彼女を抱くのに差支えはなかった。
私は本能に従って彼女と交わった。その間、甘美な夢を与えるのだ。
角だけでなく有翼を晒した姿で、痛めつけられた身体を欲望のままに味わう。
「まだ死を望むのか?」
夢うつつに彼女は頷いた。
柔らかな唇を唇で押し開け、"Viola" を口移しした。
我々には甘い蜜となるそれは、人間には苦い毒となる。
「寂しくないように、息絶えるまで見守ってあげるよ」
活けてあった薔薇の花片を食いちぎり、彼女の寝台を薔薇で飾った。
指先まで冷たくなるまで彼女に触れていた。
"Lilith" は悪夢を喰う。
中でも気に入った相手に対しては、その悪夢を育てて喰らう。
夢で侵し精力を奪い、死に至らしめる。これが我々 "Lilith" の本性だった。
しかしそれだけではなかった。
完全に冷たくなると思いきや、彼女の頬に紅がさし始めた。
急速に増えていく知識がその答えを冷酷にも教えてくれた。
"Lilith" との性交渉の後、条件に適合した者は同じ種と変化する。
つまり、彼女も "Lilith" に成り変わったのだ。
身体を起こした彼女は時間を巻き戻された少女の姿だった。
厄介な怪物を産んでしまった。
「花盗人は重罪か、まったくだ」
彼女が最期に望んだことすら叶えることができなかった。
血で汚れた "Maison" と消えた薔薇。
潰れた眼球を見て、クラウディオス・フォンテーヌブローは絶望を味わっただろうか。
「とうとう女神を見つけられたのだな」
ニュクスからこんな手紙が届いてもおかしくないはずだった。
けれどもキャンディの決着はつかなかった。
小さな怪物は無知の状態で生まれ、雌雄の区別がなかった。
生きる術を知らない赤子同然の "Lilith" を連れて、私は放浪することになる。
食事を覚えるまで面倒を見る羽目になった。
その頃には『女神のそれ』も廃番となり、"Night Series No,13-MUSIC" の味を覚えていた。
「この物語の怪物の名はヒュプノス。舞台の上では『キャメル』という。
不幸で厄介な怪物を産んだ罪を償う方法は見つからない」
息をついた男は奇術師のマスクを外した。
odd-eyesの片方は、コレクションの眼球から選んだものであることを知っていた。
「お前を捕えるために編んだ夢の心地はいかがかな?」
『C』のダイスが砕け散った。
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